B型肝炎と肝炎治療実施医療機関の役割について(その1)
2020.05.10
B型肝炎・C型肝炎はウィルスの感染により発病し、適切な治療を行わないまま放置すると慢性化し、肝硬変や肝がんといった重篤な病気を発症する恐れがあります。国内の感染者数はB型肝炎が約120万人(2011年)、C型肝炎が約200万人(2008年)と推定されています。国はB型肝炎・C型肝炎を国内最大の感染症と認識し、肝炎の早期発見、医療機関へのアクセス、肝炎の正しい知識の啓蒙など様々な課題の改善を目的として肝炎対策特別事業を展開しています。当院はこの事業における肝炎治療指定医療機関に指定されています。今回はB型肝炎・C型肝炎治療と肝炎治療指定医療機関の役割に関して、2回に分けてお話ししたいと思います。
・高額なB型肝炎治療薬と医療費助成制度
近年の肝炎治療の進歩は目覚ましいものがあります。1980年代以降B型肝炎の治療ではインターフェロンが可能となりましたが、注射薬であること、副作用、有効率の低さから治療可能な患者さまは限定的でした。2000年以降ウィルスの増殖を抑制する核酸アナログという飲み薬が次々に登場し、副作用も少なく確実に肝炎を鎮静化できることから、多くの患者さまがこの治療薬の対象となりました。しかしながら、製薬会社の長年の研究努力によりこのような素晴らしい薬が創薬されたのですが、その対価としての薬価は決して安くはありません。例えば最新の核酸アナログであるベムリディーは1錠997円です。1日1錠を毎日内服しなければならないので、月のお薬代は約3万円になります。核酸アナログはウィルスの増殖を抑制する薬であり、完全に消失させるわけではありません。よって、基本的には生涯内服を続けなければいけない薬であり、その患者さまの経済的負担は計り知れません。肝炎対策特別事業ではこの高額な治療費をサポートする医療費助成制度があり、これにより多くの患者さまが経済的な不安を感じずに治療を受けられるようになりました。
肝炎治療で医療費の助成を受けるには診断書作成指定病院(県内では21施設が指定されています)の肝臓専門医・消化器病専門医に診断書を作成してもらい、申請する必要があります。助成が認可されれば、以後は当院のような治療実施指定病院(県内では約230施設が指定されています)でも治療を受けることができます。
・医療費助成の手続きの簡素化と通院負担軽減の可能性
B型肝炎の治療に有効な核酸アナログはこれまで5種類が発売されました。ゼフィックス(一般名:ラミブジン)という初期の核酸アナログでは耐性(薬が効かない)ウィルスが高頻度に出現することが問題でした。また、耐性ウィルスの出現時は専門的な知識による対応が必要でした。次に発売されたヘプセラ(一般名:アデホビル)は、ゼフィックスほどではありませんがやはり耐性ウィルスの懸念があり、それだけではなく長期の服用による副作用にも注意を払う必要がある核酸アナログでした。しかしながら、2006年に発売されたバラクルード(一般名:エンテカビル)は耐性ウィルスの出現や副作用の心配が少ない核酸アナログで、以後、安心して治療できるようなりました。2017年にはベムリディー(一般名:テノホビルアラナフナミドフマル酸塩~少々長いので我々専門医はTAFと言っています)という核酸アナログが発売されました。これは、2014年に発売されたテノゼット(一般名:テノホビル)を改良したもので、耐性ウィルスの出現率は極めて低く、またテノゼットの課題であった長期内服による副作用を大幅に軽減した、非常に優れた核酸アナログです。
これまで医療費助成で核酸アナログの治療を続けるには、毎年、診断書作成指定病院の医師に更新のための診断書を作成してもらう必要がありました。これはB型肝炎の患者さまにとって大きな負担であったと思います。以前、私は青森県の八戸市立市民病院(医療圏30万人の中核病院)に勤務していました。その地域の診断書作成病院の一つであったため、毎年春には60人くらいの核酸アナログの医療費助成更新の診断書を作成していました。バラクルードが使用できるようになってからのB型肝炎治療は素晴らしく、耐性ウィルスや副作用の心配がほぼなくなりました。青森県は広大な地域です。検査と薬の処方のために遠方から何時間もかけて通院されている患者さまも多くいて、負担軽減のためクリニックとの病診連携を常に模索していました。平成27年よりB型肝炎の核酸アナログ治療では医療費助成の手続きが簡素化され、これまで必要であった更新のための医師の診断書が不要となりました。これにより利便性の高い近隣の治療実施指定病院でより治療が受けやすい環境が整ったと思います。
B型肝炎は早期に発見し、医療機関や助成制度を上手に利用すれば、治療薬の進歩もあり、多くの患者さまが健康な人と変わらない生活を送れるようになりました。しかし、残念ながら未だウィルスを完全に体内から排除することは難しく、長期にわたる核酸アナログの内服が必要な病気です。当院は肝炎治療医療機関としてB型肝炎の「真の完治」の日がくるまで、患者さまと向き合いながら健康をサポートしていきます。
次回はC型肝炎と肝炎治療実施医療機関の役割についてお話しします。
院長
青森県三沢市出身
函館ラ・サール高校卒
近畿大学医学部卒
医学博士
日本内科学会認定 総合内科専門医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本内視鏡学会認定 内視鏡専門医
日本肝臓学会認定 肝臓専門医
日本医師会認定 産業医
日本肝癌研究会 会員
日本超音波学会 会員
難病指定医 消化器科
身体障害者福祉法第15条第1項による指定医(障害区分:肝臓の機能障害)