糖尿病の診断について(血糖値とHbA1Cについて)
2023.10.23
皆さん今年度の健康診断の結果はいかがでしたか?
仙台市若林区六丁の目にある角田記念まつだクリニック内科・消化器内科では、短時間かつ少量の血液で糖尿病の診断できる検査装置を導入しています。
今回は糖尿病の診断に関して少し触れたいと思います。
そもそも糖尿病とはインスリン(膵臓から分泌される血糖値を下げるホルモン)の作用不足によって、血糖値の高い状態が続く病気です。高い血糖は血管を傷つけ、さまざまな糖尿病合併症を引き起こします。よって、血糖値を見ることは糖尿病の診断には非常に重要です。しかし、1回だけの血糖値では糖尿病の診断をすることはできません。「去年の健康診断は血糖値160で糖尿病と言われたけど、今年は120だった。何もしてないのに良くなったよ。」とお話しになる患者様がいます。これは、本当に良くなったのでしょうか?健康な人でも血糖値は食事・運動・ストレスなどの影響を受け70mg/dl〜140mg/dlぐらいの幅で変化します。糖尿病の患者様ではこの上昇の幅はより大きくなります。1回の血糖値のみで糖尿病の診断ができないのはこのためです。これを補うためにHbA1C(ヘモグロビンA1C)など過去にさかのぼって長期の血糖値の状態を把握する検査と照らし合わせて、糖尿病の診断を行います。
日本糖尿病学会の糖尿病診断では
- 血糖値(空腹時≧126mg/dl、75gOGTT2時間≧200mg/dl、随時≧200mg/dlのいずれか)
- HbA1C≧6.5%
を糖尿病型としています。
血糖値とHbA1Cが共に糖尿病型であるとき糖尿病と診断します。血糖値・HbA1Cのどちらか一方のみが糖尿病型の場合は再検査します。再検査で血糖値が糖尿病型の時は糖尿病と診断できます。最初の検査で血糖のみが糖尿病型、再検査でHbA1Cのみが糖尿病型の場合も糖尿病と診断できます。
上記のOGTTとはブドウ糖負荷試験のことです。前日の夜から絶食とし、朝にクリニックに来院していただき、75gブドウ糖を水に溶かしたもの(トレーランGというジュースのようなものを使用するのが一般的)を飲み、30分、60分、120分と採血し血糖値の推移を調べます。いわゆる隠れ糖尿病の診断に役立ちます。また、糖尿病の診断に至らない患者様でも、60分の血糖値が180mg/dl以上の場合は、将来糖尿病を発症する可能性が高いと言われ、慎重な経過観察を必要とします。
日本糖尿病学会では以下のような患者様にこの検査をすすめています。
1.強く推奨される場合(現在の糖尿病の疑いが否定できないグループ)
- 空腹時血糖値 110〜125mg/dlのもの
- 随時血糖値 140〜199mg/dlのもの
- HbA1Cが6.0〜6.4%のもの
2.行うことが望ましい(将来糖尿病を発症する可能性が高いグループ、高血圧、脂質異常症、肥満など動脈硬化のリスクをもつものは、特に施行が望ましい)
- 空腹時血糖値が100〜109mg/dl
- HbA1Cが5.6〜5.9%もの
- 上記を満たさなくても、濃厚な糖尿病の家族歴や肥満が存在するもの
糖尿病は自覚症状に乏しく、健康診断などでの早期発見が大切です。今一度、ご自身の今年度の健康診断の結果をご確認ください。
院内でピロリ菌の便中抗原検査ができるようになりました
2023.07.04
|ピロリ菌とは?
ピロリ菌は胃粘膜に生息する細菌で、胃がんの最大の原因です。
|ピロリ菌の検査方法
感染診断にはいくつかの方法がありますが、その中で尿素呼気試験は最も精度が高いとされています。
仙台の角田記念まつだクリニック内科・消化器内科では、2020年に尿素呼気試験の検査機器を導入し、短時間で感染診断を行うことができるようになりました。これにより、速やかにピロリ菌の除菌療法を開始することが可能となり、患者様の通院負担軽減に大きく貢献しています。
しかしながら、ごく稀にではありますが、内視鏡でピロリ菌感染を強く疑っても、尿素呼気試験で診断できない場合があります。
抗菌薬や胃薬などの服用、呼気の採取時に息止めが上手にできなかったことなどは、尿素呼気試験の偽陰性(実際は感染しているのに検査で陰性と判定されてしまうこと)の原因として知られています。このような場合は他の検査を行い、総合的にピロリ菌の感染診断を行います。
|精度が高く負担も少ないピロリ菌検査「便中抗原測定法」
当院では、便の中にピロリ菌の痕跡がないか調べる便中抗原測定法という検査を行っています。
方法は簡単で、専用容器で便を採取し、診断キットを用い10分程度で判定できます。
採便が必要であるという欠点はありますが、体への負担はなく、精度も近年はめざましく向上し、尿素呼気試験と比較しても遜色はありません。ピロリ菌治療後の効果判定にも使用できます。
これまで当院ではこの検査は外部の検査機関に委託していたため、診断まで数日を要していましたが、この度院内で実施可能となりました。これにより患者様のさらなる負担の軽減が期待できます。
仙台でピロリ菌の検査治療をお考えの方は、ぜひお気軽に若林区六丁の目駅前の角田記念まつだクリニック内科・消化器内科までご相談ください。
令和4年度 当院における上部内視検査(胃カメラ)の実施状況
2023.07.04
仙台の角田記念まつだクリニック内科・消化器内科で実施した、昨年度の胃カメラの実施状況に関してご報告します。
当院で胃カメラを受けられる患者様の参考になれば幸いです。
・実施した人数
令和4年度 | 518人 |
令和3年度 | 528人 |
令和2年度 | 555人 |
・検査の種類
経口内視鏡(口からの胃カメラ) | 253(48%) |
経鼻内視鏡(鼻からの胃カメラ) | 193人(37%) |
鎮静剤を使用した上部内視鏡(眠ってする胃カメラ) | 72人(14%) |
・主な検査の目的
胃の痛み・胸やけなど症状の原因を調べるため | 173人(33%) |
前回の胃カメラで指摘された病変の経過観察のため | 114人(22%) |
健康診断(バリウムなど)で異常を指摘されたため | 58人(11%) |
仙台市胃がん内視鏡検診 | 148人(29%) |
・診断した胃の病気で特筆すべきもの
未治療のピロリ菌による胃炎 | 50人 |
治療を必要とする逆流性食道炎 | 36人 |
胃・十二指腸潰瘍 | 9人 |
胃粘膜下腫瘍 | 16人 |
食道胃静脈瘤 | 2人 |
アニサキス症 | 1人 |
≪総括≫
新型コロナウィルス感染拡大以降、内視鏡では厳重な感染対策の実施が必要となりました。
当院でも従来行っていた対策に加え、ガイドラインに準じて検温、換気、ガウン・フェイスシールド着用など、これまでにない対策を開始しました。
令和4年度は弱毒のオミクロン株が流行の主体となり、ワクチン接種率向上もあいまって、様々な状況で規制緩和が行われました。しかしながら、内視鏡診療の現場では依然として感染リスクを念頭におきながら診療を続けています。
医療のなかで内視鏡はコロナ流行以前から厳重な感染対策が要求される部門です。
近年、当院で感染対策として行ってきたことの一つは、内視鏡機材のディスポーザブル(使い捨て)への変更です。
以前は多くの機材を消毒滅菌し再利用していましたが、近年はディスポーザブル製品も発売されています。ディスポーザブルはコスト面では不利ですが(患者さまの検査費用には影響ありませんのでご安心ください)、感染予防には非常に有効です。
昨年度はマウスピース(胃カメラを嚙まないように口にくわえる器具)をディスポーザブルに変更しました。最も徹底した消毒滅菌を必要とする処置具の生検鉗子(癌が疑われるときに診断のため胃の粘膜を採取する器具)は、2019年にディスポーザブルに変更しています。これらの対策は当院の内視鏡の感染予防に大きく寄与すると考えています。
仙台市若林区六丁の目駅前の角田記念まつだクリニック内科・消化器内科では、患者様が安全に内視鏡を受けられるよう、常に検証を行い環境整備しています。
過敏性腸症候群の診断に大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)は必要か?
2023.06.15
過敏性腸症候群とは、腹痛と便秘や下痢などの便通異常が慢性に続いたり、繰り返したりする病気です。
日本人の約10~15%が罹患しているといわれ、われわれのような消化器内視鏡専門医のいる消化器内科専門クリニックを受診することが多い病気の一つです。ストレス・腸内細菌・脳内ホルモン・体内ホルモン・遺伝などが発症に関わっているといわれています。
良性疾患ではありますが、日常生活の満足度に影響を与えるため適切な治療が必要となります。また、過敏性腸症候群の症状を訴える患者さまの中には、大腸癌・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)など生命に影響を与える重篤な病気もあるため、診断には慎重を要します。
|過敏性腸症候群の診断
過敏性腸症候群の診断には国際診断基準のローマⅣ基準が用いられます。
【過敏性腸症候群の診断基準】
- 腹痛が直近3か月の1週間につき少なくとも1日以上を占め、
- 下記の2項目以上の特徴を示す
①排便に関連する
②排便頻度の変化に関連する
③便形状(外観)の変化に関連する
【過敏性腸症候群の分類】
過敏性腸症候群は中心となる症状で以下のように分類され、それぞれに合った治療を行います。
- 便秘型:硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便が25%未満のもの
- 下痢型:軟便(泥状便)または水様便が25%以上あり、硬便または兎糞状便が25%未満のもの
- 混合型:硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便も25%以上のもの
- 分類不能型:性状異常の基準がいずれも満たさないもの
ローマⅣ基準は検査を行わず症状のみで診断できるため、過敏性腸症候群の患者を絞り込むのに有用とされています。
しかし、本邦でローマⅢ基準(ローマⅣ基準の前のバージョン)に合致した患者さまに大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を行ったところ、10.3%に大腸癌を含め何らかの異常所見を認めたと報告されています。過敏性腸症候群の診断で最も重要な大腸癌などの除外にはローマ基準のみでは不十分であることが分かります。
よって、過敏性腸症候群の診断においては、大腸癌や炎症性腸疾患などの可能性を疑うアラームサイン(警告兆候・症状)の有無を重要視します。本邦の学会ガイドラインでは、①発熱②関節痛③血便④6か月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少⑤異常な身体所見(腹部腫瘤の触知・腹部の波動・直腸診による腫瘤触知・血液付着)をアラームサインとしています。これらのアラームサインが無い場合はローマ基準の診断精度は約98%であったとの報告も一部ありますが、やはり100%の完璧なものではありません。
|過敏性腸症候群の診断に大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)は必要か?
過敏性腸症候群と診断できる特徴的な大腸内視鏡所見は現時点では分かっていません。
それでは何故、腹痛や便通異常など過敏性腸症候群を疑う症状を認めた場合、われわれ消化器内視鏡専門医は患者さまに大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を奨めるのでしょうか?
それは大腸癌や炎症性腸疾患など生命に影響を与える病気を完全に否定するためです。
本邦のガイドラインでは、先述のアラームサイン①~⑤があった場合、貧血・便潜血・低蛋白・炎症反応陽性といった検査の異常があった場合に大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を推奨しています。
大腸癌リスクの高い50歳以上の発症、過去に大腸癌や炎症性腸疾患を罹患した患者さま、家族にこのような病気の人がいる場合も危険因子を有するとされ、大腸内視鏡を推奨しています。
以上よりガイドライン上は、50歳未満の発症で、アラームサインや採血などの検査異常がなく、危険因子もなくて、ローマⅣ基準を満たす場合は大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を実施せずに過敏性腸症候群と診断できます。
確実に除外しなければいけないものが、生命に影響を与える病気であるため、大腸内視鏡を行わずに過敏性腸症候群と診断するにはいくつものチェックポイントをクリアしなければいけません。
また、本邦のガイドラインでは患者さまが検査を希望した場合も大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を推奨しています。大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を実施しないで過敏性腸症候群を診断することの難しさを補完するものです。
例えば50歳未満の大腸癌が全く存在しない訳ではありません。われわれ消化器内視鏡専門医は時にこの年代の大腸癌に遭遇します(本邦統計罹患率 35歳~49歳 11.9~38人/人口10万人対)。患者さまの「何かおかしい」「大腸癌が心配だ」という気持ちに対しては真摯に向き合わなければいけません。
良性疾患の過敏性腸症候群を疑う症状で大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を行う最大のメリットは、大腸癌や炎症性腸疾患など生命を脅かす病気は存在しないと確実に保証できることです。
これは必ず患者さまが日々の生活を送る上で大きな「安心」になります。
近年の大腸内視鏡診断装置の進歩は目覚ましいものがありますが、未だ大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)は決して楽な検査ではないと思います。しかし、われわれ消化器内視鏡専門医は「苦痛の少ない」「安全で」「正確な」大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)を行えるように常に研鑽を積んでいます。
便秘、下痢、腹痛、血便など気になる症状が続く場合は心配なさらずに是非ご相談ください。
令和4年度 当院における大腸内視検査(大腸カメラ)の実施状況
2023.06.13
昨年度の当院の大腸内視鏡実施状況に関してご報告します。当院で大腸内視鏡検査を受けられる患者さまの参考になれば幸いです。
・実施した数
令和4年度 | 202人 |
令和3年度 | 184人 |
令和2年度 | 156人 |
・実施した大腸内視鏡の詳細
全大腸内視鏡検査 | 108人(53%) |
鎮静剤を使用した(眠ってする)全大腸内視鏡検査 | 70人(34%) |
S状結腸内視鏡 ※ | 24人(12%) |
・主な検査の目的
血便の原因を調べるため | 39人(19%) |
腹痛、下痢、便秘などの症状の原因を調べるため | 41人(20%) |
前回の大腸カメラで指摘された病変の経過観察のため | 25人(12%) |
健康診断(便潜血反応など)で異常を指摘されたため | 75人(37%) |
・診断した大腸の病気で特筆すべきもの
進行大腸癌 | 2人 |
大腸ポリープ | 70人 |
潰瘍性大腸炎 | 3人 |
虚血性腸炎 | 9人 |
神経内分泌腫瘍 | 1人 |
カンピロバクター腸炎 | 1人 |
放射線腸炎 | 1人 |
・大腸ポリープの転帰
当院でポリープを治療切除 | 11人 |
高次医療機関にポリープの診断治療を依頼 | 13人 |
経過観察 | 46人 |
≪総括≫
平成4年度、大腸内視鏡検査を行う目的として最も割合が多いのは、健康診断で行った便潜血反応陽性の原因を調べるためでした。この傾向は数年来変わりありません。
また、ガイドラインにおいても、便潜血反応陽性は大腸内視鏡の絶対適応です。その中で、昨年度は2例の進行大腸癌を発見しました(2人/75人)。
便潜血反応は、食事の制限は不要、苦痛もなく、費用も安価、大腸がんによる死亡率低下のエビデンスもあり、大腸がん検診の方法として広く普及しています。
しかしながら、残念なことに本邦では陽性者の3割が精密検査を行わず放置されているといわれています。健康診断で便潜血反応が陽性であった場合は必ず大腸内視鏡検査を受けましょう。
昨年度、直腸の神経内分泌腫瘍を診断しました。神経内分泌腫瘍は神経内分泌細胞(ホルモンを産生する細胞)からできる腫瘍の総称であり、以前はカルチノイド腫瘍とも言われていました。その発生頻度は年間で新規患者数が10万人あたり3~5人であり、比較的稀な腫瘍です。
その多くは膵臓と消化管(特に直腸)に発生します。消化管に発生した場合は、稀に腫瘍からの出血で発見される場合がありますが、多くは無症状で内視鏡で偶然発見されます。内視鏡では黄白色の表面滑らかな隆起として見つかり、稀な腫瘍ではありますが特徴的な所見であり、経験のある専門医であるならば診断には苦慮しないと思います。
治療方針は通常の大腸癌と同様です。腫瘍が大きな場合は手術で摘出を行います。転移をみとめた場合は集学的な治療を行います。今回のケースでは幸い早期発見ができたため、高次医療機関へ紹介し内視鏡治療で完治することができました。
※S状結腸内視鏡検査については、「令和3年度 当院における大腸内視検査(大腸カメラ)の実施状況」をご参照ください。
進化するレントゲン:
フラットパネルディテクターとAI(人工知能)診断
2023.03.29
角田記念まつだクリニック内科・消化器内科では、2023年3月24日(金)より新しい医療機器「X線フラットパネルディテクター(FPD)」「胸部レントゲン画像病変検出ソフトウエア(FUJIFILM CXR-AID)」を導入いたしました。
今回はその機器について詳しく解説したいと思います。
|レントゲン写真から分かること
レントゲン検査は健康診断で必ずといっていいほど行う検査です。当院でも毎日のように実施しています。
例えば下記のような症状で使用します。
- 胸の痛みで受診した場合:
自然気胸(肺に穴があきつぶれる病気)がないかチェックします - 咳のため受診した場合:
肺炎や肺癌がないかチェックします - 腹痛のため受診した場合:
腸閉塞や尿管結石がないか調べます - 症状のない生活習慣病:
心肥大や心不全の兆候がないか定期的にレントゲンで調べます
最近では、CTやPETなど優れた検査機器もありますが、検査費用が安い、機器が広く普及し手軽に受けられる、被爆量が少ない、その割に得られる情報も意外に多いなど、レントゲンのほうが優れている点も多くあります。
|進化するレントゲン:
フラットパネルディテクター
当院では最新のフラットパネルディテクター(FPD)というレントゲンシステムを使用しています。
以前使用していたコンピューティッド・ラジオグラフィー(CR)は、放射線を蓄える特殊な板に放射線を照射して撮影し、撮影終了後にその板を撮影台から取り外して運搬し、読み取り機に入れて画像化していました。
新たなFPDでは、放射線が照射される板自体で画像化までを完了してしまいます。よって、CRと比較し画像の劣化が少なく、低被爆で高画質なレントゲン画像が得られます。
また、特殊な板の取り外しと運搬の作業が省略されるため、大幅に撮影時間が短縮されます。
患者さまや医療者に負担となっていた、レントゲンの撮り直しや、胸部正面撮影→側面撮影といった連続撮影も簡単に行えるようになりました。
現在レントゲンを大量に撮影する総合病院や健診センターでは広く導入されていますが、今後はクリニックでも徐々に普及していくと期待されます。
|進化するレントゲン:AI(人工知能)診断
当院では胸部レントゲン画像病変検出ソフトウエア(FUJIFILM CXR-AID)を導入しています。
これは撮影した胸部レントゲン画像をAI(人工知能)が自動解析し、肺癌の可能性がある影、肺炎の可能性のある影、気胸が疑われる領域をマーキングし指摘します。
解析は30秒程度で完了します。これを医師が確認し、病変の見落とし防止を支援するシステムです。
AI診断に関しては、当院で実施する全ての胸部レントゲンに無料で実施しています。
レントゲン検査は非常に身近で基本的な検査ですが、確実に進化を遂げています。
レントゲン検査の最大の長所は気軽に受けられることです。症状があるときは当然ですが、症状がないときでも病気の早期発見のため定期的にレントゲン検査を受けましょう。
あなたの脂肪肝、本当に大丈夫ですか?
2022.11.28
・「脂肪肝」とは?
肝臓に脂肪がたまりフォアグラのような状態になったものを「脂肪肝」といい、いまや日本人の3人に1人が罹患していると言われています。健康診断で指摘されたことがある方も多いのではないでしょうか?
これまで「軽い病気」と考えられてきた脂肪肝ですが、最近になり「決して油断してはいけない病気」であることが分かってきました。
・危険な脂肪肝の存在
お酒が肝臓に悪いことはよく知られていますが、日本人が脂肪肝になる原因の多くは「食べ過ぎ」です。
お酒をたくさん飲まない人の脂肪肝を「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」といいます。NAFLDの患者では狭心症や心筋梗塞が多いことが近年の研究で知られており、生活習慣病の温床として認知されるようになりました。
NAFLDには下記2つのタイプがあります。
■症状が軽く改善しやすい単純性脂肪肝(NAFL)
■重症の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
特に後者のNASHは、放置すると肝硬変や肝臓癌へ進行します。NAFLも放置するとNASHに進行することがあります。
脂肪肝の人すべてが重症化するわけではありませんが、早期に診断して原因となる生活習慣や肥満を改善し、慎重に経過観察することが大切です。
・重症化する危険性のある脂肪肝(NASH)を診断するには?
肝臓は「沈黙の臓器」と言われているため、症状からは診断できません。また、症状があるときは既に進行している可能性があります。
代表的な肝臓の病気で知られているB型・C型肝炎は血液検査をすれば簡単に診断できます。しかし脂肪肝(NASH)では「これを調べれば間違いなく診断できる」という血液検査は現時点では存在しません。
よって、複数の血液検査や画像診断を駆使し、その解釈で病気の存在を疑う医師のテクニックが不可欠です。
こんなに身近にありふれた病気であるにもかかわらず、脂肪肝(NASH)の診断はとても難しいのです。
・何とか早期に脂肪肝(NASH)を発見できる診断方法は無いでしょうか?
完璧ではないのですが、ひとつの方法として挙げられるのは「FIB4インデックス」というものです。
これは肝臓の病気の進行度を予測する計算式のことで、年齢・血小板値・肝機能(AST、ALT)といった、健康診断で一般的に行われている検査項目を基に導き出されます。「1.30以上」が脂肪肝(NASH)を疑うひとつの指標です。
日本肝臓学会のホームページにアクセスして該当項目の検査結果を入力すれば、誰でも値が計算できます。
他に挙げられる簡単な診断方法としては、血小板値の確認があります。
一般に血小板の基準値は15万~35万個くらいです。ほとんどの肝臓の病気は、進行すると徐々にこの血小板値が低下していきます。そして脂肪肝(NASH)では、C型肝炎など他の肝臓の病気に比べ、症状が進行しても血小板値の低下が緩やかであると言われています。
よって、より早期に脂肪肝(NASH)を発見するためには、血小板値の正常範囲内である20万個を切る頃から疑ってもよいと思います。血小板の検査結果が正常値の範囲内であっても、実際の数値をしっかりとご確認ください。
健康診断の結果を今一度ご確認頂き、脂肪肝に関して何か気になることがありましたら遠慮なくご相談ください。
令和3年度 当院における大腸内視検査(大腸カメラ)の実施状況
2022.04.14
昨年度の当院の大腸内視鏡実施状況に関してご報告します。当院で大腸内視鏡検査を受けられる患者さまの参考になれば幸いです。
・実施した数
令和3年度 | 184人 |
令和2年度 | 156人 |
令和1年度 | 136人 |
平成30年度 | 162人 |
・実施した大腸内視鏡の詳細
全大腸内視鏡検査 | 118人(64%) |
鎮静剤を使用した(眠ってする)全大腸内視鏡検査 | 51人(27%) |
S状結腸内視鏡* | 15人(8%) |
・主な検査の目的
血便の原因を調べるため | 30人(16%) |
腹痛、下痢、便秘などの症状の原因を調べるため | 49人(26%) |
前回の大腸カメラで指摘された病変の経過観察のため | 23人(12%) |
健康診断(便潜血反応など)で異常を指摘されたため | 63人(34%) |
・診断した大腸の病気で特筆すべきもの
進行大腸癌 | 1人 |
早期大腸癌 | 3人 |
大腸ポリープ | 70人 |
潰瘍性大腸炎・クローン病 | 4人 |
虚血性腸炎 | 1人 |
アメーバー性腸炎 | 1人 |
・大腸ポリープの転帰
当院でポリープを治療切除 | 6人 |
高次医療機関にポリープの診断治療を依頼 | 10人 |
経過観察 | 54人 |
≪総括≫
コロナウィルス流行に伴う病院への受診控えが問題となっていますが、昨年度の当院での大腸内視鏡検査の実施数は例年並みといった状況です。
患者さまの苦痛の少ない内視鏡へのニーズの高まりにより、鎮静剤を使用した大腸内視鏡の割合は3割程度と年々増加傾向にあります。クリニックを移転後、鎮静剤を使用した内視鏡を行えるよう環境整備したこともあり、最近では私自身も大腸内視鏡に対する不安感の強い患者さまへは積極的に鎮静剤の使用を勧めるようになりました。まずは、大腸内視鏡検査を受けていただき、しっかりと診断を行うことが大切だと考えています。
大腸ポリープに関しては、昨年度当院では6人の患者さまの治療を行いました。すべて偶発症なく無事に完了しています。技術的に難しい患者さまに関しては東北大学病院、仙台医療センター、東北医科薬科大学病院、仙台市立病院に治療を依頼しました。
昨年、無症状のアメーバー性腸炎を経験しました。アメーバー性腸炎は赤痢アメーバに汚染されたものを摂取することにより発症し、多くは腹痛、下痢、血便といった症状を呈します。私が当院に着任してから3人目のアメーバー性腸炎の患者さまですが、これまではいずれも症状のある患者さまでした。しかしながら、今回のように便潜血陽性のため内視鏡を行い発見されるケースが0.1%の頻度であると国内で報告されています。症状ない患者さまの大腸内視鏡検査においても留意しておかなければいけません。
*S状結腸内視鏡検査:
通常の大腸カメラは下剤を内服して腸を空っぽにしてから内視鏡を挿入し肛門から盲腸まで全ての大腸を観察します。よって、全大腸内視鏡検査ともいいます。S状結腸内視鏡は肛門から近い部分の大腸(S状結腸~下行結腸まで)のみ観察します。当院では血便の患者さまが来院したとき、浣腸や下剤を使用せずに当日緊急で行っています。下剤を内服しないため、また奥まで内視鏡を挿入しないため、安全に行うことができます。また、出血の程度が分かるため緊急性の有無の判断に役立ちます。血便の場合は肛門から近い大腸に病気が存在することが多いため、出血の原因が診断できることもあります。しかしながら、下剤を内服していないため便や血液が邪魔をして詳細な観察ができません。また、全ての大腸を観察していないのが不十分です。よって、多くの場合、後日下剤を内服して全大腸内視鏡を行っています。その前の偵察のようなものです。
令和3年度 当院における上部内視検査(胃カメラ)の実施状況
2022.04.14
昨年度の当院の胃カメラの実施状況に関してご報告します。当院で胃カメラを受けられる患者さまの参考になれば幸いです。
・実施した人数
令和3年度 | 528人 |
令和2年度 | 555人 |
令和1年度 | 570人 |
平成30年度 | 540人 |
・検査の種類
経口内視鏡(口からの胃カメラ) | 286人(54%) |
経鼻内視鏡(鼻からの胃カメラ) | 192人(36%) |
鎮静剤を使用した上部内視鏡(眠ってする胃カメラ) | 50人(9%) |
・主な検査の目的
胃の痛み・胸やけなど症状の原因を調べるため | 200人(38%) |
前回の胃カメラで指摘された病変の経過観察のため | 96人(18%) |
健康診断(バリウムなど)で異常を指摘されたため | 54人(10%) |
仙台市胃がん内視鏡検診 | 140人(26%) |
・診断した胃の病気で特筆すべきもの
早期胃癌 | 6人 |
未治療のピロリ菌による胃炎 | 54人 |
治療を必要とする逆流性食道炎 | 8人 |
胃・十二指腸潰瘍 | 5人 |
胃粘膜下腫瘍 | 15人 |
胃腺腫 | 3人 |
食道胃静脈瘤 | 2人 |
アニサキス症 | 1人 |
薬剤性食道炎 | 1人 |
≪総括≫
昨年度の胃カメラの受診者は例年より若干少なめでした。コロナウィルス流行に伴う病院への受診控えが問題となっておりますが、幸い当院では進行胃癌の患者さまはいませんでした。
早期胃癌と診断した患者さまは例年より多かった印象です。昨年、胃カメラを最新機種に更新したこと、開院後24年が経過しかかりつけ患者さまが高齢化してきていることが影響していると推定しています。
衛生環境の向上から国内ではピロリ菌感染者は減少傾向にありますが、当院ではピロリ菌による胃炎の診断は増加傾向にあります。2020年にピロリ菌の診断装置を導入したため、ピロリ菌の診療治療目的に受診される患者さまが増加したためと推定しています。
胃カメラの苦痛軽減のニーズは年々高まっていて、昨年度は半分弱の患者様が経鼻内視鏡や鎮静剤を使用した内視鏡を選択していました。従来の経鼻内視鏡は画質にやや不満がありましたが、最新機種ではこれを克服しているため自信をもってお勧めできるようになりました。苦痛なく精度の高い検査を受けられるように今後も環境を整えていきたいと思います。
昨年度、ダビガトラン(商品名:プラザキサ)による薬剤性食道炎を経験しました。胸やけのある患者さまの原因を調べるため胃カメラを行ったところ、特徴的な食道炎を認めました。ダビガトランを内服していたため、この疾患を疑い他の薬に変更したところ改善しました。ダビガトランは心房細動の患者で血栓予防のために使われる抗凝固薬です。この病気は2012年頃に報告され、当時は話題になりました。近年は他の抗凝固薬がいくつか発売され、ダビガトランを内服している患者さまは減った印象です。しかしながら、いまだ留意しなければいけない病気であると思いました。
胃がんの早期発見・早期治療のため胃内視鏡(胃カメラ)検診を受けましょう!
2021.07.25
これまで胃がん検診においては長い間、胃エックス線検査が推奨され行われてきました。一度でも受けたことのある方はお分かりだと思いますが、バリウムという白い液体を飲んだのちに、検査台の上でゴロゴロと体位を変え、レントゲン写真を撮っていく検査です。胃癌による死亡率を減少させるというしっかりとした科学的根拠もあるのすが、バリウムを飲んだあとお腹が痛くなる、検診を受ける日・場所などが限定される、要精査になる(検診でひっかかる)と再び胃カメラを飲まなければいけないなど、不満の声の多い検診の一つです。
このようななか、胃カメラによる胃がん検診の導入を望む声はかなり以前よりありました。しかし、当時は科学的根拠が少ないことから長らく先送りとなっていました。ところが近年、国内外の研究から胃内視鏡検診が胃癌の死亡率を下げるという根拠が徐々に示されるようになり、平成27年に厚生労働省「がん検診のあり方に関する検討会」より胃がん検診の検査項目は「胃エックス線もしくは胃内視鏡とする」との提言がなされました。これを受け全国の市民検診で胃内視鏡検診が徐々に導入され、仙台市でも平成31年度より開始されることとなりました。
胃カメラによる胃がん検診は、お近くの登録医療機関(診療所・病院)で受けることができますので利便性は向上すると思います。異常が発見された場合はその場で病変を採取し、精密診断をすることもできます。胃エックス線検査よりも胃癌による死亡率を下げる可能性があるのではないかというデータも出揃いつつあります。
胃カメラは一般的に偶発症(被検者の望んでいない事象)の極めて少ない安全な検査なのですが、残念ながら決して楽な検査ではありません。市民検診では比較的苦痛が少ないと言われている経鼻内視鏡は選択可能です。しかし、当院を含む多くの病院・診療所などで行われている鎮静剤・麻酔薬を使用しての胃内視鏡(いわゆる眠ってする内視鏡)は市民検診ではできません。何故ならこれらの薬剤を使用した胃内視鏡は、万全の対策を講じて実施しても明らかに偶発症の頻度が上昇するということが学会等の全国調査で知られており、「安全な検査方法でがんを早期発見する」という市民検診の基本理念に反するものであるからです。但し、「少々のリスクはあっても苦痛なく検査を受けたい」という、個人の判断も尊重されるべきであると思います。このような方々には、市民検診ではなく個人検診での鎮静剤・麻酔薬を使用した胃内視鏡をお勧めします。
胃エックス線検査と胃内視鏡検査はそれぞれ良い点、悪い点ともにあり、現時点では優劣を判断し難いのですが、胃がん検診の選択肢が増えたことは素晴らしいことだと思います。胃内視鏡検診のスタートを契機に胃がん検診の受診率が向上し、胃がんの早期発見・早期治療につながることを期待したいと思います。